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東京地方裁判所 昭和41年(レ)332号 判決 1967年4月24日

控訴人 上田勝一

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 隈部種樹

被控訴人 田部勝彦

右訴訟代理人弁護士 吉田欣二

主文

控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

被控訴人先代田部良彦が昭和一六年一二月七日その所有に係る本件建物を控訴人勝一に賃貸したこと、その後良彦の死亡により被控訴人が本件建物所有権および右賃貸人の地位を相続したこと、以上の各事実はいずれも当事者間に争がない。

≪証拠省略≫を綜合すれば次の事実が認められる。

控訴人勝一の長男である控訴人健次は、控訴人勝一の家族の一員として本件建物に居住し、昭和三六年四月ごろ妻和枝と結婚し引続き本件建物に居住してきたが、昭和三六年から昭和三八年までは千葉刑務所において服役していた。

一方、控訴人の妻和枝は昭和三七年三月一〇日長男一郎を出産したが、これに先立ち、同日から一週間ほど前に本件建物から三浜荘に転居した。

控訴人健次は前記刑務所を出所後三浜荘に起居し、昭和三八年四月一八日付をもって三浜荘の所在地を住所とする住民登録をなし、その後、同控訴人が昭和三八年一〇月ごろから株式会社東興業の名称で中元や歳暮の贈答品の販売を営んでいる日本橋小網町の店舗に通勤していた。

ところで、和枝が本件建物から三浜荘に転居したのは、控訴人勝一が、一郎を出産する和枝に気がねをさせないために、控訴人健次名義で三浜荘の一室を借り与えたことによるものであり、家賃は現実には控訴人勝一が支払っていた。

さらに、食事については、控訴人健次の服役中和枝が病気のときは控訴人勝一の妻が本件建物から三浜荘にこれを持参してやり、和枝の健康の回復後は和枝が本件建物に赴いて控訴人勝一宅でこれをとっていた。また控訴人健次も前示刑務所から出所後は三浜荘に居住している和枝のもとに帰りそこに起居していたが食事は勝一宅でとっていた。

以上の事実が認められ、前記各証拠のうち右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。

控訴人勝一が昭和三八年一二月ごろ川崎市に建物を新築し、同月一五日ごろ同一世帯の家族と共に本件建物から右新築建物に転居したこと、控訴人健次が右控訴人勝一の転居後直ちに三浜荘から本件建物に入居してきたこと、以上の各事実はいずれも当事者間に争がない。

そして、原審控訴人上田勝一本人尋問の結果によれば、控訴人勝一は川崎市の新築建物へ転居後は自らは本件建物に居住する意思はなく、控訴人健次を本件建物に居住させるつもりであり、控訴人勝一自身は同控訴人が東京都内で経営している工場の連絡場所として本件建物を使用したいと考えていることが認められ、他にこれに反する証拠はない。

被控訴人は、控訴人勝一が本件建物から退去して右建物に控訴人健次を居住させた行為は賃借物の無断転貸であると主張するので、これについて判断する。

民法第六一二条にいわゆる転貸とは、賃借人が第三者をして賃借物の使用収益をなさしめる契約をなすことをいうのであるが、右の第三者とは、賃借物の全部または一部につき独立して使用収益をなしうる地位を取得すべき者を指称する。したがって、建物の賃貸借契約においては、賃借人と同一家計内の親族等が賃借建物に居住することは、賃借人の賃借権の範囲内に属することがらであって右親族等が賃借物につき独立して使用収益をなしているものではないから、賃借人が右の親族等を賃借建物に居住させることを賃借物の無断転貸ということはできない。しかしながら、賃借人が賃借建物から他に転居し、その結果、従来賃借人の同一家計内の親族等として賃借建物に居住してきた者が、右建物につき独立して使用収益をなしうるに至ったときは、賃借人が賃借建物から退去した行為は、第三者に賃借物を独立して使用収益させたものとして、賃借物の転貸に該当する。

これを本件についてみると、前示のとおり、控訴人健次は三浜荘に起居してそこから株式会社東興業に通勤してはいたものの、他方、同控訴人が三浜荘に起居するに至ったのは、同控訴人が前示刑務所から出所後和枝の起居する三浜荘に帰ったものであるところ、右三浜荘は控訴人勝一が和枝の出産に際し和枝に気がねをさせないために控訴人勝一が自ら賃料を支払ってこれを和枝に借り与えたものであり、控訴人健次および和枝とも食事は控訴人勝一宅でとっていたものであることを考慮すると、控訴人健次が控訴人勝一から独立して生計を営んでいたものと断定することはやや困難である。したがって、控訴人健次は控訴人勝一の同一家計内の親族であるとみるべきであるから、控訴人勝一が本件建物に控訴人健次を居住させたこと自体は賃借物の転貸ということはできない。

しかしながら、控訴人勝一は昭和三八年一二月一五日ごろ川崎市の新築建物に移転し、その後は控訴人健次が本件建物に居住しているのであるから、この時点において控訴人勝一と控訴人健次とは家計を異にしたものであり、控訴人健次は本件建物を独立して使用収益するに至ったものとみるべきである。したがって控訴人勝一は同日ごろ賃借物である本件建物を第三者に転貸したものといわなければならない。

しかして、被控訴人が控訴人勝一に対し昭和三九年五月二四日到達の書面により右転貸を理由として本件賃貸借契約解除の意思表示をなしたことは当事者間に争いがない。

してみると本件賃貸借契約は同日解除されたものである。

したがって、控訴人勝一に対して本件賃貸借契約解除による原状回復請求権に基づき、また、控訴人健次に対して本件建物所有権に基づき、それぞれ本件建物の明渡を求める被控訴人の請求は理由があり、被控訴人の右請求を認容した原判決は結論において正当である。

よって、控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却し、民事訴訟法第九五条および第八九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西山要 裁判官 福田健次 山口忍)

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